特別にお客様にご許可を頂き襖の修復工程をご紹介致します。
ご協力頂いたお客様には心より感謝申し上げます。
旧辻田家寄贈襖絵修復
修復の経緯
河内国渋川郡植松村(現大阪府八尾市植松町)において「西の辻田家」と称された江戸時代から続く庄屋屋敷に代々受け継がれた、江戸時代から明治時代までの大福帳・証文類などの古文書絵襖・屏風・掛軸などの書画類、和本・書籍類、その他、短冊や民具などおよそ1,000点近くの資料が2018年に辻田家より八尾市に寄贈されました。(特別企画展案内より抜粋)
弊社では寄贈品の保管・管理を担う八尾市指定文化財 安中新田会所跡 旧植田家住宅 様のご依頼により上記の寄贈された資料の内、主屋の客を迎える式台とザシキの間に使われた大きな襖絵(幅145.5㎝×高さ176㎝ 4面 表:競馬図 裏:岩涛に虎図/源恭義 作)の修復作業をさせて頂きました。
特別企画展にて一般公開
令和2年10月24日~12月25日(現在は会期終了)
八尾市指定文化財 安中新田会所跡 旧植田家住宅において
特別企画展 「旧辻田家寄贈襖絵初公開」にて一般公開されました。
修復工程動画の制作
修復時に提出した報告書を元に構成した修復工程動画を制作し展示とともに公開されました。
修復工程
1.修復前の状況
解体前の旧辻田家での調査時の状況です。ザシキの建具として使用されていたため破れ、欠損、亀裂などの劣化・損傷が各所にありました。 |
|
2.修復方針の決定
襖の損傷状況を確認した上で、修復方針として浮け張り以下の下張りは現状を活かして表張りのみ修復する事としました。
3.修復前撮影・記録/引手・棹縁取り外し
修復前の現状記録、写真撮影の後 引手および棹縁を襖から取り外しました。 |
|
引手取り外し | |
棹縁取り外し | |
折れ合い釘で取り付けられていた為、逆方向に叩いて緩めて外しました。 |
|
奥付の発見棹を外したところ仕立てた表具師の名前と年代の記録が見つかりました。製作時の状況を示す貴重な記録のため別途修復して返却いたしました。 |
|
4.表(オモテ)張り解体
表張り部分の劣化・剥落した部分を下地に直接貼り付けて補修した箇所がありました。部分的に下張りごとくり抜き、表張り部分を外して元に戻して補修しました。 |
|
下張りに使われた反故(ほご)紙の中にこのようなコミカルな絵が描かれているものもありました。 |
|
5.ドライクリーニング
襖の表面に積もった汚れを落とすため、刷毛やケミカルスポンジ・食パン等を使用しドライクリーニングを行いました。食パンは柔らかく適度な湿り気があるため、作品を傷めることなく表面の汚れを吸着し取り除く事ができます。油分が含まれていると作品に影響を及ぼすのでバター等不使用の無添加食パンを使用します。
6.滲(にじ)み止め
「競馬図」は金箔の画面に胡粉で描かれており、作業において剥落の恐れがあるためドーサ液(膠とミョウバンの混合液)にて滲み止めを行いました。裏面の「岩涛に虎図」も墨の滲みの恐れがあるため同様にドーサ液で滲み止め処理を行いました。
7.本紙表(オモテ)打ち
胡粉の剥落を防ぎ作業時に作品を保護するためにメチルセルロースを蒸留水で希釈し薄手楮紙を用いて表(オモテ)打ちを行いました。
8.洗い
「岩涛に虎図」面のみ汚れや染み等を浄水にて水洗いを行いました。
9.旧裏打ち紙除去
襖表面に多数の亀裂や欠損部分があり、補修の為、浮け張り、旧裏打ち紙を除去しました。
10.欠損補修
欠損部分に楮染紙をあてがい補修を行いました。
補修前 | 補修後 |
11.肌裏打ち
旧裏打ち紙を除去し欠損部分を補修後、楮染紙にて肌裏打ちを行いました。(岩涛に虎図 面)
※古色の染紙を使用する事で亀裂の間から裏打ち紙の白さが目立たなくなるため
裏打ち後、張り板にかけて十分に乾燥させました。
12.増し裏打ち
肌裏打ちが十分に乾燥したのち、厚口の石州紙にて二層目の裏打ち作業を行いました。
裏打ち後、張り板にかけて十分に乾燥させました。
13.補彩作業
亀裂・欠損箇所に補彩作業を行い、傷を目立たなくしました。
14.下張り補修
元の下張りを活かしての修復のため必要な箇所の下張りの補修を行いました。
15.表張り(本紙)貼り込み
修復が終わった表張り(本紙)を補修が済んだ襖下張りに貼り込みました。
16.棹縁打ち込み
表張り貼り込みの後、棹縁を打ち込みました。元の棹縁が虫喰い等劣化・損傷がひどかった為、お客様との協議の上同寸で新しく棹縁を製作しました。
17.引手取り付け
修復前、解体時に取り外して保管した引手を刷毛等でクリーニングしました。その後記録を元にそれぞれ元の襖の位置に取り付けました。
18.修復完了・検品
修復作業完了後、検品を行い報告書を作成しました。
19.修復前後写真
修復前 | 修復後 |
修復前 |
修復後 |
修復前 | 修復後 |
修復前 | 修復後 |
修復前 | 修復後 |
修復前 | 修復後 |
修復前 | 修復後 |
修復前 | 修復後 |