特別にお客様にご許可を頂き襖の修復工程をご紹介致します。
ご協力頂いたお客様には心より感謝申し上げます。
1.修復前
愛知県、「矢田のおかげん」で親しまれている養寿寺様は大変由緒ある古刹です。これまでにも何度も所蔵の品々を修復させて頂いております。
この度、書院の襖の傷みが激しいとの事で弊社に修復のご依頼を頂きました。大小合わせて24枚になる3室の襖ですので大変大がかりな修復になる事を思案されておられたのですが、「このまま劣化が進んでは後世に伝えていくことができなくなる」との思いから修復することを決められました。
修復前の状況としては襖表面の各所にやぶれ・剥落・剥離などがみられ、縁(フチ)も欠損や虫損などによりかなりの傷みがみられました。
修復方法として襖本紙の修復を行うと共に修復後の取り付けを考慮して組子、縁(フチ)も現状の物を修復して使用することにしました。
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2.解体
縁(フチ)を本体から外します。あて木を使いスライドさせて解体していきます。
3.本紙外し
縁(フチ)をすべてはずし本体から本紙をはずしていきます、古い襖の裏紙や蓑張りには当時の不要な紙(反故(ほご)紙)が使用されていますが、現代ではそれ自体が当時の資料になりますので、お客様によっては返却を希望される方もおられます。養寿寺様も返却を希望でしたので、できるだけお返しするようにいたしました。
(本紙の状態や作業により必ずしも全てご返却できるものではございません)
4.ドライクリーニング・にじみ止め処理
長年にわたるほこりや汚れが表面に付着しているのでやわらかい刷毛などを使いドライクリーニングを行います。その後、作業中の水分で絵具がにじんだりしないように慎重にドーサ液でにじみ止め処理を行います。
5.本紙洗い
作品の保護のため、本紙をレーヨン紙で挟み表面・裏面を純水で洗います。
その際、本紙の時代や古色を損なわないように注意して行います。
6.肌裏紙製作・裏打ち修復
本紙の裏打ち修復を行うにあたって、本紙の時代・古色を生かすため、本紙に接する肌裏紙を本紙の地色に合わせて染めて製作します。
破れたり欠損している部分を色調・質感を合わせた和紙で補修した後、製作した肌裏紙で少し濃い目の正麩(しょうふ)糊を使用して裏打ちを行います。一度乾燥させた後、本紙の割れや折れの部分に帯状に切った極薄の和紙をあてがい(折れ伏せ)補強します。その後再度、正麩(しょうふ)糊を使用して美濃紙で増し裏打ちを行い、仮張り板にかけ(張り付け)乾燥させます。
7.補彩・補色作業
お客様のご希望により欠損部分、損傷部分に補彩・補色作業を行います。
欠損部分や傷のある部分に元の絵の部分と違和感が出来ない様に慎重に色を差し傷等を目立たなくします。
(注)加筆して元の絵を復元するわけではありません。
8.縁(フチ)の補修・修理
補修前状況
白アリによる虫損被害や経年劣化による割れや欠けなどにより、傷みが激しい状態です。
白アリによる虫喰いなどの損傷を受けているものは、損傷部分を切り取り、新しく形をあわせた材を作ってあてがいます。端が欠けたり割れたりしているものも同様に形状を合わせて作りあてがって補修します。
パテうめ・研ぎ
へこんだり、えぐれたりしているものは胡粉(ごふん)を使った特殊なパテで埋め補修します。全ての縁(フチ)の補修を行ったあと、表面全体を研いで、全体をフラットにするとともに元の塗りを落として塗り直しをしやすくします。
塗り直し・磨き
補修し、研ぎ終わった縁(フチ)を塗り直します。ご予算とご要望によって本漆で塗り直しをする場合もありますが今回はカシュー塗料(漆の代用としてお仏壇などにも使われるものです)で塗り直しを行います。一度塗って乾燥させた後砥石で磨き微妙な凹凸をフラットにします。これらの作業を数回繰り返し仕上げていきます。
9.組子(骨組み)の修理
本紙、裏紙、下張りなどをすべてはずした組子(骨組み)を純水で洗い、虫食いや経年劣化などで傷んだ部分を補修し、今後の使用に耐えうるよう組子に竹釘等で補強を施します。
10.骨縛り(下地張り)
骨組みの固定のため楮紙で骨縛りを行います。
11.胴張り
透過防止及び厚み出しのため間似合紙等で胴張りを行う。(写真はワンプを使用)
ワンプとは再生紙の為、写真のように脱酸処理を行ってから張り込みます。
12.蓑張り
薄美濃紙を用いて蓑状に紙を貼って行きます。(3枚重ね)和紙を重ね張りすることで破れやへこみを回避するだけでなく下部が浮いた状態になって空気が通る為湿度が調整され弾力のある仕上がりになります。
13.蓑しばり
厚手の楮紙や反故紙などしっかりした紙で全面に糊を付け蓑おさえを行う。
14.袋張り
蓑しばりの上から薄手の美濃紙で袋張りを上下2回行います。
紙は喰裂(くいさき)紙を用います。
15.上張り(本紙張り込み)
修復が完了した本紙を下張りした組子に上張り(張り込み)します。
本紙裏面に極めて薄い糊を全体に引き四方のフチには濃い糊をつけて、本紙の位置を合わせて張り込みます。
16.縁取り付け
本紙を張り込んだ本体に修理した縁(フチ)を取り付けます。
17.引手付け
引手を元の位置に取り付けます。
18.修復完成
19.納品・取り付け
修復が完了した襖を検品した後、お客様に納品します。
全ての襖が取り付けられ修復が完了した部屋を畔柳優世副住職、ご家族様がご覧になり「思い切って修復した甲斐があった」と大変喜んでいただけました。