特別にお客様にご許可を頂き掛軸の修復工程をご紹介致します。
ご協力頂いたお客様には心より感謝申し上げます。
1.修復前
経年劣化が激しく本紙上部のほとんどが欠落していました。
また残っている部分も劣化のため、非常に脆くなっており、バラバラになっていました。「残っている部分だけでも直して切り取って額に入れて残せないか」との思いで弊社にお問い合わせ頂きましたが、お客様のお母様が非常に大切にされてきた思いがこもった品ですので、弊社としてできるだけ元の形を再現できるように修復させて頂きました。
2.にじみ止め処理
修復作業にかかるにあたってまず、描かれている絵が作業中の水分でにじまないようにしっかりとにじみ止め処理を行いました。写真ではドーサ液を使用して筆で絵の輪郭をなぞるようにしてから内側に塗っていく作業を行っています。
3.裏打ち紙地色合わせ
この作品の修復は損傷の状況を見て、欠損部分へのあてがいと、裏打ちを行うことにしました。しかしただ単に作品の裏に和紙を張るだけですと残存部分との間に違和感がでるため、作品の地色にあわせた裏打ち紙を作るところから始めました。
4.旧裏打ち紙の除去
5.裏書きの修復
修本紙の修復の過程で、掛軸の裏書きも同様に修復しました。修復した裏書きは仕立ての際に元通りに貼り直します。
6.作品の肌裏打ち
元の裏打ち紙を全て除去し形を整えた作品に、地色を合わせて作製した和紙(工程3)で肌裏打ちを行いました。裏打ちをした後は写真の様に張り板に貼り付け乾燥させました。
この段階ではまだ肌裏の紙と本紙の色に若干の差が見られます。
7.補色・折れ伏せ
乾燥した作品を張り板から外し作品以外の余白部分をカットした後、残存部分と欠損していた部分の色を見て補色を行い、違和感の無いように調整しました。
また、掛軸として巻いた際に折れてしまうおそれがありましたので、防止する為裏面に極薄の楮紙の帯を張りました(折れ伏せ)。状況にもよりますがこの作品の場合全体が細片化しているので、全体に施しました。
8.つけ廻し作業
本紙の修復が終わると掛軸のつけ廻し(仕立て)作業に入ります。掛軸の裂地(きれぢ)はお客様の好みや、ご希望ランクでお選び頂けます。
今回は元と似た感じでとお任せ頂きましたので、似た雰囲気になる裂地を選び、そこから更に手作業で加工を施し、時代を感じさせる色調に調整しました(古色加工)。
古色加工した裂地を作品の周辺に継ぎ合わせ、掛軸の形に仕立てていきます。
9.増し裏打ち
掛軸に組み立てた資料に手漉き和紙で裏打ちを行います。今回紙は手漉きの美栖紙(みす)を使用し、糊は作品の状態をみて正麩糊をやや薄くして使用しました。
増し裏打ち後は肌裏打ち(工程6)の時と同じように張り板に貼り付け乾燥させました。
10.総裁ち
乾燥したら仮張り板から外して、出来上がりの寸法に整形します(総裁ち)。
その際に掛軸の両サイドを裏面に折り込む「耳折り」や、裏面の上下に八双と軸棒をつけるための和紙をつける作業も行いました。
11.総裏打ち
修復しておいた裏書きを元と同じ位置に貼り付け、出来上がり寸法に整形した掛軸に最後の裏打ち(総裏打ち)を行いました。総裏打ちには手漉きの宇陀紙の極薄を使用します。
総裏打ち後は再度張り板に貼り付けました。乾燥期間は作業工程や気温・湿度によって変わりますが、総裏打ちの場合は肌裏打ちや増し裏打ちよりも長くとっています。
12.化粧断ち 八双・軸棒付け
総裏打ちが十分に乾燥したら、張り板から外し余分な部分をカットし(化粧断ち)、八双と軸棒を取り付けました。
八双と軸棒はお客様のご要望で新しく交換することもできますし、再利用が可能な状態であれば元のものもご使用になられます。今回軸棒は元のものが使用できましたが、八双は傷みがあったため新しくしました。
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13.鐶(かん)打ち 風帯(ふうたい)・紐付け
八双に掛軸の紐を通す為の鐶を打ち込みます。裂地に風帯を取り付け、鐶に紐を通して、飾れる状態に仕上げます。
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14.修復・仕立て直し完了
修復前 |
修復後 |
修復前(裏書) |
修復後(裏書) |